日産GT-R
GT-R
<名車作りの基本はやっぱり人にあり!>

国:名車とか記憶に残るクルマってやっぱり開発スタッフのキャラクターも濃いものなんだけど、GT-Rは本当に濃いメンバーだった。
永:開発リーダーの水野さん(グループCカーのレース監督やFMプラットホームの旗振り役だった方)と開発ドライバーの鈴木利男さんですね。利男選手は現役時代、あの渋さが好きでした。
「作品」として作られたクルマは日本車史上初めてかも
国:まず、上の写真を見て欲しいだけど、スライドに書いてあることはインパクトがすごく強かった。この手の講釈には興味ない私が最後まで聞いちゃうんだからすごい。どういうことかというと、水野さんがイキナリね、GT-Rみたいクルマっていうのは世の中の存在しなくても誰も困らない単なる「作品」だって言い切っちゃうワケ。だからこそ使うとか使わないは関係なく、他に代わりになるものがないくらい徹底的に性能や楽しさといった魅力を追求しなければならない、って話が続くんだわ。
永:私はあのスライドの例の部分を見た瞬間に自分の生活は右の「製品」だなと思いました(笑)。
国:普通はそうだろ。左が多いほど文化人でカッコ良い。このスライド見ると、だからレクサスとGT-Rってかなり違う位置にあるんだなと改めて思ったね。
永:レクサスだと「GSとISならクラウンでもいいか」もしくは「クラウンの方がいいか」ってなりますからね。
国:で水野さんなんだけど、下の写真はどういう意味か分かる? 親分がイキナリ押し始めたもんだから、こら加勢しなきゃならん、とばかり最初全員一緒に押し始めたの。それを「誰も触らないで」と言って再プッシュの図。みんな戸惑ってるでしょ。
自らGT-Rを押す水野氏、GT-Rに対する愛を感じます
永:GT-Rって押すと意外に軽いんですか。
国:まあそういうこと。水野さんによるとGT-Rのタイヤはトレッドの縦方向の接地面積は非常に小さいから、その分転がり抵抗が少なくて1700kg以上もあるクルマなのに1人で押せば動くんだって。
永:転がり抵抗が少なければ燃費にも好影響と。
国:ホントに軽く動いた。水野さんの演説はとにかく面白いよ。
永:ちょっと話が脱線するんですが、GT-Rの777万円って価格は利益出るんですか?
国:損はしてないみたい。でも、開発費がメチャクチャかかってるのは事実だから、そのあたりは先行投資みたいな意味で使ったお金として扱っているらしい。
永:では、GT-Rの開発で得たノウハウから今後の日産車が変わっていく可能性はありますね。
国:それと新座のトシちゃんが素晴らしいと思う。
永:?????
国:ヨメのお母さんの実家が埼玉県の新座なんだけれど、そのあたりじゃ鈴木利男さんの家って凄く有名。ヨメのお母さんは「新座のトシちゃん」と呼んでいる。で、鈴木利男さんともいろいろ話したんだけど、納得させられることばかり。
永:現時点での不満点は何か言ってしましたか?
国:利男さんはレースだけでなくプライベートでもいろんなクルマに乗っているからGT-Rの開発には超適任だと思う。簡単にまとめるとパフォーマンスに関してはポルシェやフェラーリにも負けないレベルだから相当満足してるみたい。でも、まだポルシェやフェラーリと同じ値段では売れないクルマっていう認識はあるって。
GT-Rをドライブする鈴木利男氏、鈴木氏なしではGT-Rは生まれなかったかも?
永:それはどんなところで?
国:残念ながらナイショ。
永:正直インテリアはスカイラインクーペの方が高く見えます。GT-Rのスイッチ部分は下手するとインテリアの評判の良くないZ並みかと。
国:じゃ今度デザイナーの長谷川さんに会った時に言っておくよ。
永:カンベンしてください。
国:世の中に不要なモンなんだから、今のGT-Rがイヤなら買わなければいいだけ。作っている側が”粋”なお客の意見を聞いて直していけばいけばいいと思う。いずれにしろでも、GT-Rは毎年のように手を加えていくだろうから着実に進歩するよ。
<日本車史上に残る1台が登場!>
国:ということでGT-Rの四方山話といこう。
永:クルマ好きはもちろん、クルマにあまり関心のない方からも大きな注目を集めていますから、買えるとか買えないというのは別にしてすごく興味あります。まず、「スカイライン」の名前が取れたR35GT-Rの生い立ちというか開発における意気込みを確認しておきたいのですが。
国:正直乗る前は現行スカイラインをパワーアップして、ヨンクにしたようなクルマ、つまりR34までのスカイラインGT-Rの延長線上みたいクルマかと思ってたんだけど、全然違った。ホントに今度のGT-Rは今までの日本車とは目指している次元がまったく違うクルマ、本気でポルシェやフェラーリに対抗できるクルマにしようって気合いが強烈に感じられる。
永:小市民の自分には「ノーマルだと280馬力だけど、社外パーツが豊富でいじれば500馬力でも600馬力でも出せるぜー」っていうR34までのGT-Rも魅力的に感じるのですが、280馬力規制がなくなってメーカー純正としてポルシェやフェラーリに真正面から対抗できるスーパーカーが出てきたというのは感慨深いです。
国:インパンクトでは初代セルシオや初代プリウスかそれ以上なんじゃないかな。
<色気ないスタイルもGT-Rの個性?>
永:それではスタイルやインテリアから見ていきましょうか。
国:ノーコメントにしておいて。
永:そう来ることは予想してました。私個人は正直「不格好なスタイルだな」と思いました。でも不格好なのはR34も同じですし、最近では不格好なのがGT-Rの個性なのかなと感じつつあるところもあります。
国:確かに長く続けていれば、いいとか悪いを超えてそれがいつの間にか個性になるっていうケースはあるわな。
好き嫌いは別として強烈なオーラを感じるリアビュー
永:逆にインテリアは迷っているような感じというか「777万円の値段は内容考えたら激安なんだろうけど、インテリアに使うコストをケチらなくてもいいのに」といった印象を受けました。センターコンソールにただスイッチが並んでて、平板に見えるというか。インテリアもR34の雰囲気を延長した無骨な雰囲気にして、「無骨さ」をGT-Rの個性にしちゃう手もあったと感じました。
国:モニターの配置もなんか取って付けたような感じだし、レーシングカーののデータロガーみたくいろんな情報が出るマルチファンクションメーター(テレビゲームのグランツーリスモと共同開発)も子供っぽい。ダッシュボードに革が貼ってあるところなんか頑張ってると思うんだけど。まあ、内外装は歴史を重ねながら良くなっていくよう期待しましょう。

モニターとスイッチ類のデザインが変わればインテリアの印象は激変するか?
永:それとちょっと話がずれますが、サーキットでのシートのホールド性ってどうでしたか? 32から34までのGT-Rって非常にシートの評価は高かったですが。
国:第2世代のGT-Rよりもホールド性は良かった。でも、座り心地はポルシェほどではなかったってところかな。
永:形が大人しくなったように感じていましたが安心しました。

見た目以上にスポーティなシート、写真はブラックエディション
<走りはポルシェ、フェラーリ上等!>
永:さて、巷で凄い凄いと言われている走りなんですが。
国:日本で乗ったのは愛知県に今年出来たスパ西浦モーターパーク(全長約1.6km)と周辺の公道だったんだけど、ホントにレーシングカーみたいな速さだね。
永:今売られている標準のGT-Rはポルシェ911ターボをベンチマークに開発されたそうですが、911ターボと比べてどうですか?
国:どこを取ってもハッキリと勝ってる。
永:そこまであっさり結論が出るくらいですか!
国:うん、圧勝。まずエンジンとミッションから行くと、ウェット路面でシフトのモードを一番スポーティな『R』にしてアクセル全開するとアテーサET-Sを持ってしてもタコ踊りしちゃうくらいパワフル。
永:市販車ですけどチューニングカーみたいですね。まあ480馬力ってチューニングカーみたいな馬力ですけど。

重量配分最適化のためにミッションをリアに移動した「トランスアクスル」にも注目
国:なのにサーキットを走るとウェットでもとにかく楽しいんだわ。VDCをノーマルにしておけば滑らないようにVDCが働いてメチャクチャ速く走れるし、Rモード(VDCをタイム向上のために使う)にすれば適度に滑らせながら楽しい走りが出来る。
永:世界一安全で楽しいクルマといえそうですね。
国:それでウェットのサーキットでVDCをオフにすると滑りまくるんだけど、腕さえあれば文字通りに自由自在にコントロールできる。ターンインでブレーキ残してコーナー入るとうまくフロントで引っ張りながらリアも適当なアングルで逃げてくれてホントに楽しい。
永:1700kg台の重量って気になりませんか?
国:驚くべきことに全く気にならない。水野さんが「タイヤは荷重がかかるほどグリップが出るから重心を低くするのと、ダウンフォースを使ってタイヤを地面に押し付けられればグリップが出てコントロールできる」って言ってたんだけどその通りだった。本来はそういう走り方をすべきクルマじゃないんだろけど、ドリフト三昧でも楽しいしR34スカイラインのFR車みたいにガンガン振り回せた。
永:GT-Rには話題の装備としてサーキットではスピードリミッターをカットできる機能がありますけど、スパ西浦では使いましたか?
国:ウェットのスパ西浦だと、ドライよりも脱出スピードが遅れるからストレートエンドでメーター読み180kmくらいだったんでギリギリ使わなかった。でも、ドライなら確実に180kmオーバーだから有効に使えるよ。
ウェットのサーキットでも楽しめる走りはお見事!
永:続いて公道での印象なんですが、単刀直入にお聞きします。普通に使えるもんですか?
国:精神的リミッターさえあれば大丈夫だよ。
永:2ペダルMTのフィーリングはどうですか?
国:スタートだけトルコンと比べ違和感あるけど、全然許容範囲。似たシステムを使うランエボ10のツインクラッチSSTと比べると、あっちの方がスムースというか普通のATのように感じる。どっちがいい悪いってことではなくてね。

ゲートは左側/オート。右側/マニュアル。変速操作はパドルで行う
永:それと乗り心地なんですが。
国:乗り心地も許容範囲、ただ期待値に届いていなかったかな。
永:思ったより良くなかった原因は20インチのランフラットという常識外れのタイヤですか?
国:それもあるかもしれない。加えてGT-Rは911ターボをターゲットにしていると言いながら、GT2のスピード領域を狙ったようなところがあって、そのために可変ダンパーを使っているのね。その調整が日本の公道だとちょうどいいところに当たらないっていうもあるのかもしれない。ストラットアッパーなんて、ブロックみたいな補強になってたからサスペンション取り付け部の剛性なんかは過剰なあるとくらいと思うんだけど。ちなみにダンパーは一番緩めた「コンフォート」でもウエットのサーキットなら十分。公道で一番きつくした「R」なんて使っちゃうととんでもないことになる。
タイヤサイズは圧巻の20インチ(写真はダンロップ)、ダンパーはビルシュタイン製
永:トータルするとGT-Rのコンセプトの掲げられている「Anyone(誰でも)、Anywhere(どこでも)、Anytime(いつでも)乗れるスーパーカー」っていうのはきちんと実現されていることが分かりました。
国:特に世界のスーパーカーを見ても、911ターボとかランボルギーニ、アウディR8あたりは4WDだけど、その種のクルマっていざ雪が降ったら雪道走るのを遠慮したくなるようなクルマばかりだからその面でもGT-Rの万能ぶりは大きな武器というか個性になる可能性を秘めていると思う。
<その他気になることいろいろ>
永:メンテナンス関係で新しい情報はありましたか? 保証に関しては普通のクルマだって厳密には改造したり、サーキット走行中のトラブルは保証適応外なわけですからそんな珍しいことではないかと個人的には思います。ただGT-Rは「チューニングが当然」みたいなクルマだから大騒ぎになったんでしょうけど。
国:残念ながら特に新しい話はないけど、消耗部品の寿命は予想以上に長いみたい。例えばローターとパッド1台分で50万円するブレーキ関係だけど、今回はサーキット試乗会を3日間やってパッドとローターは1セットで間に合ったそうな。
タイヤとブレーキのチェックだけ行いコースインするGT-R
永:そんなに持つんですか! それなら50万円もそれほど高くもない気がしますね。タイヤはどうですか?
国:タイヤもサーキット走行3日間やって交換無しだって。
永:ウェットの日があったという要素を考えても「そんなタイヤあるんですか?」ってくらいのもライフですね。それだけ持つのなら高いけど、交換頻度が少ない分偉い気がします。
国:ブレーキとタイヤにもレーシングカーの技術が詰まってるんだと思う。
永:Vスペックに関しては?
国:特に聞かなかったけど、本当にレーシングカーにナンバーが付いたようなクルマになるみたいだから、「むやみに公道では乗らないで欲しい」ってくらいスパルタンなクルマらしい。
永:911ターボに続いて今度は911GT2を撃墜するということですね。
<貯金を始める価値大いにあり!>
永:単純なことですが、GT-Rは買いでしょうか?
国:パフォーマンス考えれば777万円はすごく安いし、欲しいなら絶対買い。日本自動車史上に残るクルマなんてそうそうないよ。買えばきっと人生楽しくなるし。昔のハコスカGT-Rに憧れていた世代の人にも大いに勧められる。「GT-Rを買ってサーキット走行に目覚めた」なんていうのもカッコイイし。
永:では、今すぐに買えなくてもGT-R貯金をする価値はあると。
国:生産を重ねるごとにクルマ(個体)の仕上がりもドンドン上がってるみたいだから、ある程度生産が進んだロットも狙い目。
永:とにかく日本から「夢」とか「憧れ」を持てるスーパーカーが出てきたということを喜ぶのと同時に、今後の熟成や伝説に期待したいですね。
国:第3世代になったGT-Rの将来はすごく明るいと思うな。
レポート/永田恵一
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